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車載機器の防曇・融雪

透明ヒーターフィルムを用いた車載機器の防曇・融雪

2021年10月 防汚・防曇技術の最新動向(シーエムシー出版)

1. はじめに
プリント配線板は,ながらく縁の下の力持ちとして様々な製品の中に隠されていた。 そのようなプリント配線板のように縁の下の力持ちとして仕事をしたいと思い,シライ電子工 業の採用試験に応募したのだが,採用面接でこのようなことを言われたのだ。 「プリント配線板はもっと前面に出て行くべきだと思う」と。 全く表に出たいと思わない私にとっては,なんて挑戦的なことを言うのだろうと一歩引いたこ とを覚えている。そこで紹介されたのが,弊社独自の開発製品の透明フレキシブル基板“SPET” との出会いである。 透明フレキシブル基板は,“プリント配線板” ではあるものの,フィルムであるため薄くコシ があるようでない。さらに,見た目も緑ではなく透明なので,通常のプリント配線板を利用され ている方には中々受け入れてもらえなかった。このような中,透明フレキシブル基板は,今まで にない業種から注目されることとなった。 たとえば看板などのサイネージ業界である。透明フレキシブル基板“SPET” をガラスで挟み 込んで,某ブランドの看板の電極配線として使用したいと声が掛かったのだ。意匠性が高く,品 がある見た目に仕上がる点が評価された。その看板は某ブランドのパリ本店に飾られている。 こうして透明フレキシブル基板“SPET” は少しずつ表舞台に立つようになってきたのだ。 近年では,サイネージ業界以外でも認知度が高まり,車載メーカなどから透明ヒータフィルム として車載機器の防曇・融雪の要求を受けるようになってきている。

2 車載機器の防曇・融雪

車載機器に用いられているヒータは,熱線ワイヤー・導電性塗料・メタルメッシュ・ITO な どが挙げられる。現在,車載機器ヒータとして用いられている多くは,リアウインドウ・デ フォッガーの熱線ワイヤーであるが,自動運転の実用化に向けた先進運転支援システム(ADAS) の採用にあたって,ヒータに求められる特性が変化してきている。車載表層において,結露によ る曇りや低温による凍結・着雪することによってレーダーなどの電波透過を妨げてしまい,先進 運転支援システムが性能を発揮できなくなってしまう。これまで運転時の環境によって,自動ブ レーキや追従運転などのシステムのエラーが起きた経験がある方も多いのではないだろうか。現状では「補助」だからと言えるが,自動運転化を進めていくのであれば,エラーを起こすわけにはいかない。 そのため適切に作動しない,作動が遅れる現象をなくすために防曇・融雪機能の搭載が必要であると考えられている。また,車載表層での防曇・融雪性能が求められるため,車の外観を損なわない,かつ,システム性能を極力低下させない“透明” なヒータフィルムが注目された。外観を損なわず透明性を保つことで,フロントガラス全体や各種カメラ前,ヘッドランプ,エンブレムへ透明ヒータフィルムを活用することで,先進運転支援システム性能の確保だけでなく,意匠性の保持も期待されている。 透明ヒータフィルムと先進運転支援システムを有効活用するためのヒータに求められる特性が合致した点は、
・高い透過率
・発熱配線の設計自由度が高い
・低抵抗値
・ヒータON からの昇温立ち上がり速度が速いである。
続けて,透明ヒータフィルムについて述べる前に,透明ヒータフィルムのベースである弊社の 「透明フレキシブル基板“SPET”」について述べる。

2. 1 透明フレキシブル基板“SPET”

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透明フレキシブル基板“SPET”(以下,SPET と表す)は,PET フィルムをベース基材に採 用した高耐熱・高透明・低抵抗の特性を持つプリント配線板である。また,PETフィルムをベー ス基材に使用しているにも関わらず,半田実装が可能であることが大きな特徴だ。SPET の基本的層構成は,PET/接着剤/銅箔/絶縁層である。SPET は銅箔を用いているが,配線幅20μm を実現しており“見えにくさ” を売りにしている。写真1 にSPET の写真を示す。 SPET シリーズには,配線を限りなく見えにくくして防曇・融雪に特化した“透明ヒータフィ ルム”,基材レス超フレキシブル基板“SPET-NN”,細線に特化した第5世代移動通信システム (5 G)に対応可能な“SPET-SG”,3 D 形状に立体配線可能な“SPET-3DNB” があり,使用用途 によって使い分ける。 写真2 にSPET-NN を示す。SPET-NN は,SPET からPET を除いた製品である。PET を除 いた分フレキシブル性が抜群であり,曲面での使用がこれまでより容易になった。スペックは SPET と同等であるため,パターン幅や半田耐熱性についても再現可能である。基材層構成は銅箔/接着剤のみで,総厚が約37μm である。薄いことにより物体へ貼り付け時に段差を最小限に抑えられ,さらにガラスやアクリルに挟み込んで使用するなど基板の存在感を消したい用途での使用に最適である。 写真3 にSPET-SG を示す。SPET-SG は,配線幅10μm の形成を可能にした。配線幅を従来 のSPET から半分にすることで,より見えにくく透明感が格段にアップした。

1-41.jpg1-3.jpg写真3 の左半分にSPET-SG があるが,見て分かるように下の文字の見え方に違いはなく,銅配線の分,多少影がかかったように見えるだけである。さらにSPET-SG は比誘電率が低く,第5世代移動通信システムに対応した透明アンテナとして期待されている。 写真4 にSPET-3DNB を示す。SPET-3DNB は銅箔を含むフレキシブル基板の三次元成形を可能にした。SPET-3DNB は成形時,銅箔配線が10〜15%伸びることが特徴である。銅箔が伸 びるため湾曲した形状に対しても配線を沿わせることができる。また,部品実装をしたSPET- 3DNB 基板の賦形やインサート成形が可能である。 以上が,SPET シリーズである。

2. 2 透明ヒータフィルム

1-5.jpg透明ヒータフィルムの特徴は,上記でも述べたように低抵抗・昇温立ち上がり速度が速い・配線の設計自由度が高く発熱の面内バラつきがない・透過率が高い,が挙げられる。 車載機器に使用するヒータは,ほとんどの場合でヒータON から1 分以内に曇りをとることを求められる。そのためヒータON からの立ち上がりの温度上昇速さが重要であると言える。 まず,写真5 に透明ヒータフィルムにより結露がとれる前後の様子を示す。左はヒータがないとき,右はヒータを貼り付けしていてヒータON のときである。またこのときヒータON から1 分後である。ヒータON から15 秒後には曇りがなくなり始め,50 秒後には完全に曇りがなくな り奥の像がはっきり確認できた。またヒータON から2 分後にはヒータ端から外側でも曇りをと写真1 透明フレキシブル基板“SPET” 写真2 SPET-NN 写真3 SPET-SG 写真4 るほどの効果が発揮されることが分かった。このように透明ヒータフィルムの効果により結露が しっかりとれて視界が良好になることが分かる。 次に低温環境下でのヒータ効果について述べる。図1 に,室温と-10℃の環境下での透明ヒータフィルムの昇温グラフを示す。それぞれの環境について同じヒータで昇温を確認した。また測定開始前と開始後の温度との差をΔT[℃]で表す。 室温環境下では,ヒータON から1 分後にはΔT16.5℃,5 分後にはΔT36.5℃を記録し,10 分 後にはヒータ温度69.2℃になりΔT は46.3℃だった。 -10℃環境下では,1 分後にはヒータ温度が8.5℃になりΔT18.5℃を示し,5 分後にはヒータ 温度20.1℃でΔT36.5℃を記録した。その後は温度上昇が飽和し,10 分後にはヒータ温度21.2℃ になり最終的にΔT は31.2℃であった。 透明ヒータフィルムは,-10℃の低温環境下でも1 分以内に0℃を超える能力があることが分かる。

1-7.jpg1-6.jpgそのため低温環境下の車載機器における凍結や着雪を1 分以内に解消する昇温能力があると言える。透明ヒータフィルムの装着部位によっては,風量を加味した昇温能力が必要となるが, ヒータ設計の変更によりさらに高い到達温度にすることや,立ち上がり温度の速度がさらに速いヒータの作製も可能である。 写真6 に,透明ヒータフィルムの面内発熱バラつきの有無の様子をサーモグラフィー写真で示す。写真6 左が発熱温度バラつきのあるヒータ フィルム,右がバラつきのないヒータフィルムである。 写真6 左ではヒータ線部分のみが発熱していて,ヒータ線の周囲がほんのり暖まっている程度写真5 ヒータで結露がとれる様子 図1 環境温度別ヒータ昇温特性である。また,ヒータ線が密集している箇所が局所的に発熱していることが確認できるが,ヒー タ線同士に距離がある箇所は密集している箇所と比べて数十℃ほど温度が低くなっている。この温度差が,車載機器の結露,凍結や着雪が均一に溶けない原因である。 それに対して,写真6 右はヒータの面内において,発熱のバラつきがなく均一に暖まっていることが確認できる。写真6 右のように面内全体が暖まることにより,結露,凍結や着雪をより効率的に均一に溶かすことが可能である。 面内が均一にクリアになるためレーダーなどを安定的に透過・受信させることができ,誤作動や動作の遅れを防ぐことができると考えられる。 次に,透明ヒータフィルムの採用事例を紹介する。 透明ヒータフィルムは,ヘッドランプヒータとして採用された。近年のヘッドランプの多くは LED が使用されている。LED ランプはハロゲンランプとは異なり低消費電力で明るく熱を持たない特徴がある。LED ヘッドランプは熱を持たないため,降雪時にヘッドランプに雪が付着したまま溶けずに留まってしまう。特に夜間の走行時では,ヘッドランプへの着雪によりランプの 光が遮られてしまい十分な視界が確保できずとても危険であった。 実際にヘッドランプに透明ヒータフィルムを装着した写真を写真7 に示す。 ヘッドランプに透明ヒータフィルムを装着し,ヒータON にしながら走行した後の写真であ る。ちょうど写真中央がヘッドランプヒータを装着した部分である。周囲のヒータがない部分は 着雪したままであるが,ヒータがある部分は雪が溶けてヘッドランプのランプが確認できる。透明ヒータフィルムを装着することにより,雪が溶けてヘッドランプの光量を確保することができ,降雪時の安全が保たれることが分かった。 透明ヒータフィルムの必要性を身をもって体験したことにより,さらに普及させていきたいと 考えるようになった。

5. 3 おわりに

1-8.jpgシライ電子工業は,従来のプリント配線板の概念から脱却しようと透明フレキシブル基板 “SPET” の開発に注力してきた。その中でも,透明ヒータフィルムがヘッドランプヒータに採 用されたことでSPET の認知度が上がってきている。近年のトレンドは自動運転に向けた車載 機器や5 G に集中していて,どちらも人々の身近な存在になっていくものである。 人々の生活の安全と利便性,国内技術の発展を目的としてさらなる開発を進めていきたいと考 えている。

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透明基板”SPET”(Super-Polyethylene-Terephthalate)事業部の考え方

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感動は人との出会いから生まれ、支えられ助けられ、人も企業も成長する。
執筆依頼がくる透明フィルム加工が、市場に評価され製品展開が進んどるのは 99.9%は運が良かったさかいやと思いますねん
運を引き寄せたのは、感動する心があったからやと振り返りまんねん
お客様をはじめ固有の技術を有する企業様方、関係してくれはるみんなと取り組んでいるコンソーシアムの全員がぎょーさん幸せを感じ、えらい豊かになり、一歩一歩進むことでほんま夢を実現したいんや。

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top1.jpgほんまもんの透明基板

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