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車載機器の融雪、防曇技術

透明ヒータ技術を用いた車載機器の融雪、防曇技術

2024年1月 車室内空間の快適性向上と最適設計技術(技術情報協会)

はじめに
2023年 3月 30日、経済産業省と国土交通省が共同で進めてきた「自動運転レベル 4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」で、道路運送車両法に基づくレベル 4の自動運行装置として国内で初めて認可された。改正道路交通法における特定自動運行に係る許可制度を活用し、レベル 4での技術・サービス実証実験がはじまった。一方アメリカでは、最先端のセンサーやソフトウェア技術を用いたロボタクシーが完全自動運転で目的地まで乗せてくれるサービスがある。さらに、同 3月 30日にハンドルやアクセルが無いロボタクシー専用車両が公道を走りはじめ、いよいよ自動運転の未来がみえてきているように感じている。  先日、アメリカでは濃霧でロボタクシーが動かなくなるニュースが流れた。実は濃霧や強い雨や降雪による悪天候、さらに夜間では自動運転ができないなどの制限がある。これらの気象条件による自動運転の制限を解除する対策の 1つに透明ヒータフィルムがあり、自動運転に必要なセンサーやカメラなどの融雪や防曇に採用されている。 シライ電子工業の社是は学働悠遊で、生活を営み得た自分の能力を社会に広く役立てることに会社の重きをおいている。自動運転技術で交通事故による死者数削減で社会貢献ができるのであれば、その能力を身につけて開発した製品の 1つが透明ヒータフィルムである。この透明ヒータフィルムの紹介と採用事例を以下に述べる。

1.透明サブストレート市場
透明ヒータフィルムを述べる前に、大別となる透明サブストレート市場について述べる。透明サブストレート市場は、透明なサブストレート・フィルムを用いた加工製品のことである。この透明なサブストレート市場は、大きく分けて 3つの主要用途がある。
(1) タッチパネル
(2) フレキシブルディスプレイ
(3) フレキシブル基板
透明なサブストレート・フィルム上に導体を形成した構造である透明フレキシブル基板「SPET」(Super-Polyethylene-Terephthalate)を開発するまでは、透明なサブストレート上に導体を形成した製品といえば、タッチパネルもしくはフレキシブルディスプレイであった。タッチパネルは、透明なサブストレートに薄板ガラスやポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの表面に、スパッタリング法などで酸化インジウム錫(ITO)導体を成膜する。導体のITOは、薄膜導体のためパターンが見えにくい特徴を活かし、スマートフォンやタブレットなどの採用が多い。ただインジウム(In)は、希少金属のため資源枯渇の問題と健康障害をおこす問題がある。また、ITOは大きな曲げに弱く、最近では銅箔や金属ナノインクのメタルメッシュで導体を形成するケースもある。一方、有機Electro Luminescence(EL)ディスプレイを含むフレキシブルディスプレイは、ディスプレイとタッチパネルの役割がある。この透明サブストレートも薄板ガラスが多いが、透明ポリイミド(PI)などもサブストレートとなる。フレキシブル基板は、メンブレンスイッチなど透明サブストレートをPETとし、銀やカーボンなどの金属ペーストを印刷工法で導体を形成することが多い。この不透明な金属ペーストの透明性を高めるためにポリ3.4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)を複合した導電性ポリマーで導体を形成し透明性を向上した用途もある。これらが透明サブストレート市場の主要用途である。

2.透明フレキシブル基板「SPET」

2.1 透明フレキシブル基板の特徴

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透明フレキシブル基板「SPET」は、写真 1のように透明なサブストレート上に銅箔をラミネートし、パターンを描くことで作製する。透明フレキシブル基板「SPET」の代表的特徴は下記3点である。
(1) 全光線透過率90.0%と高い透明性がある
(2) シート抵抗0.95mΩ/□と低い導体抵抗である
(3) リフロー耐熱が180℃と高い耐熱性がある
フレキシブル基板のサブストレートを透明にした基板イメージとお考えください。

2.2 透明フレキシブル基板「SPET」の用途

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透明フレキシブル基板「SPET」の発売をはじめたころは、アミューズメント機器を中心に市場展開した。LEDを搭載した電飾が多かったこともあり、コンサートホールやTVセット、店舗などにも展開した。この技術を用いて 2017年にドット・マトリックス・ディスプレイ「BANVISION」を市場に展開した(写真 1)。この商品がきっかけとなりディスプレイ市場用途のサブストレートへも向かうこととなる。ディスプレイ業界は、Liquid Crystal Display(LCD)パネルからActive Matrics Organic Light Emitting Diode(AMOLED)パネルなどが台頭となっていた。さらに進化させたディスプレイの 1つとして、マイクロLEDディスプレイの開発がはじまった。ドット・マトリックス・ディスプレイ「BANVISION」は透明なサブストレートを特徴にマイクロLEDディスプレイでも注目となった。さらに透明フレキシブル基板「SPET」は、5Gアンテナ、ヒューマンマシンインターフェイス、フィルムインサート成型や賦形の 3D立体基板など多くの製品で採用実績がある。2018年には配線を目で見ることができない透明フレキシブル基板へと進化して、特に車載向け製品での市場が拡大した。同年、車載メーカの要求から直ぐに暖まる車載向け透明ヒータフィルムを開発、販売をした製品が透明ヒータフィルムである。

3.透明ヒータフィルムの構成材料

透明ヒータフィルムの構造は、サブストレート厚みが 100μmまたは 188μmのPETで、そのPET上に透明な接着剤で銅箔をラミネートした 3層フレキシブル銅張積層板(FCCL)である。透明サブストレートのPETは、透明PI、ポリエチレンナフタレート(PEN)、COP、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PEN)などのサブストレートでもFCCLにできる。オリジナル透明接着剤は高透明かつ高耐熱な特性を持たせ、サブストレートに依存しなくても透明ヒータフィルムが車載の要求特性や要求品質を満たすようにした。導体はスパッタや蒸着で金属膜を形成していた頃もあったが、電子部品を実装することを目的としたフレキシブル基板用途では、導体の密着強度不足やはんだ食いでフレキシブル基板の要求を満たすことができなかった。よって導体は銅箔とし、開発当初は銅箔厚みを 35μmからスタートして大電流を流すことを重視したが、昨今は大電流を流す要求よりも導体を見えにくくする要求が増え、標準銅箔厚みを 12μmとして導体の再現幅を 15μm以下を狙う製品が多くなってきている。

4.透明ヒータフィルムの特徴

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透明ヒータフィルム(写真 2)も透明フレキシブル基板「SPET」と同様で透明なサブストレート上に銅箔をラミネートし、パターンを描くことで作製する。透明ヒータフィルムの代表的特徴は下記3点である。
(1) 高透明、高耐熱なサブストレートである
(2) 低抵抗なヒータパターンである
(3) 自由なヒータ設計ができる
4.1 高透明、高耐熱なサブストレート
サブストレートの全光線透過率が 90.0%と透明度が高い。さらに、透明ヒータフィルムにサーミスタなどの電子部品を実装できるようにリフロー耐熱温度は 180℃と高い耐熱性がある。また、高温放置や冷熱サイクルなどの環境でもサブストレートの劣化やパターンなどの線膨張係数の差による破壊を生じない特徴がある。
4.2 低抵抗なヒータパターン

ヒータパターンに体積抵抗率が 1.8×10-8Ω・m(20℃)の銅を用いることで、他の金属ヒータパターンよりも低い抵抗値である。シート抵抗値は 1.42mΩ/□であり、ITOのシート抵抗値と比較しても 1/10以下と低い抵抗値である。そのため、直ぐに暖まるヒータ能力や、低い消費電力でヒータを駆動することができることが特徴である。
4.3 自由なヒータ設計ができる

ヒータ性能、透過率、耐環境性、制御回路搭載などの要求に対して、自由にヒータの設計ができる。その設計技術や加工技術を活かして、ヒータパターンを極限まで細くすることで、ヒータパターンを見えにくくする加工ができる。さらに透明ヒータフィルム上でON-OFFなどの温度制御回路の実装ができることが特徴である。
開発した透明ヒータフィルム材料を用いて製造する。基本的なヒータパターン作製から部品実装までの製造工程を述べる。
(1) ヒータパターン作製
ロールに巻き取った 3層FCCLの銅箔表面に、感光性樹脂のドライフィルムをラミネートする。そのラミネートした基材を露光、現像、エッチング、剥離をしてヒータパターンを作製する。
(2) 絶縁層形成
絶縁層がレジストの場合、レジストインキをスクリーン印刷機で選択的に塗布することで絶縁層を形成する。このレジストは、透明サブストレートとの相性が極めて重要かつ滲みを極限まで抑え込む設計とした。
(3) 表面処理
必要に応じて表面処理は、防錆処理、黒色処理、錫(Sn)めっき処理、金(Au)めっき処理など機能面やデザイン性の要求に応じて表面処理をする。
(4) 断裁
上記までの工程は、ロール to ロール生産でおこない、以降の工程は枚葉の工程である。そのためロールから大きめのワークサイズ(枚葉サイズ)に断裁する。
(5) 貼合・外形加工
筐体やガラスなどに貼り合わせて使用する用途では、透明ヒータフィルムにOptical Clear Adhesive(OCA)を貼合、またフィルムの強度を増すためにOCAと補強板などを貼合する。その後、外形加工の要求公差に応じてビク型、トムソン型、金型、レーザー加工などでワークサイズから個片の外形サイズに加工する。
(6) 部品実装
透明ヒータフィルムは柔らかいため電子部品を実装する際は搬送トレイを用いて実装ラインに投入する。搬送トレイは、耐熱性黒ガラスエポキシ積層板やアルミ板などの板材片面に粘着層を形成する。この搬送トレイ上に透明ヒータフィルムを貼り、以降はリジッドと同様にクリームはんだ印刷、部品マウント、リフロー炉でクリームはんだ硬化を経たあと搬送トレイから透明ヒータフィルムを剥がしてから要求に応じた検査をおこなう。

6.透明ヒータフィルムの用途
6.1 融雪・防曇用途
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自動運転(AD)や先進運転システム(ADAS)は、カメラ、ミリ波レーダー、LiDARなどのセンサーを用いて車両周辺状況を認識して自動運転や先進運転システムが動作する。現状、レベル 3の車両において自動運転機能は特定の条件下に限って動作することとなっている。天候が雪のとなった場合、路面の白線が雪と同じ白色となり、道路が認識できなくなるためである。カメラで路面の白線を検知できない以外にもカメラやミリ波レーダーなどに雪が付着し誤作動を起こす危険があるため、天候が雪の場合はレベル 3の運転ができなくなっている。なので、カメラやミリ波レーダーなどの前面に透明ヒータを設けて雪を溶かす方法、風で雪を飛ばす方法、コーティングで雪が付着しにくくする方法などが検討されており、写真3のように、すでに実施している車両もある。これらの対策の 1つが透明ヒータフィルムでる。
6.2 採用事例
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透明ヒータフィルムは、ヘッドランプに後付けするヘッドランプヒータ(写真 4)に採用された。降雪時にヘッドランプの表面に付着した雪が溶けず、ヘッドランプの光が遮られ視界が確保できないという欠点を補うためである。ヘッドランプの光を透過させるため車検対応の全光線透過率75.0%以上とした。透明ヒータの性能は、停車時や高速道路運転時などの低温環境を -10℃と -20℃と仮定し、ヒータ駆動後 1分 30秒以内に雪を溶かす温度まで上昇させた。さらに曇りをとる温度上昇をΔT 30℃以上とした透明ヒータの設計とした(表 1)。さらに、洗車やチッピングによるヘッドンプヒータの傷防止や、紫外線や降雨時の耐環境性も付加することで、走行時の安全性にも配慮した製品である。
5.おわりに
防曇・融雪対策に必要な透明ヒータは、透明ヒータフィルム(SPET)が飛び抜けて優れている訳ではない。ただ、透明ヒータフィルム「SPET」は、ミリ波レーダー用ヒータ、LiDAR用ヒータ、カメラ用ヒータなど車載分野でも採用され、自動運転や先進運転支援システムのレベルを上げるサポートをすることで、安心で安全な車社会の実現に貢献している。透明フレキシブル基板「SPET」を活かした別の製品に透明アンテナがある。この透明アンテナは車とあらゆる機器を通信でつなぎ相互連携するVehicle to everything(V2X)に必要な技術である。特に、車両側の通信アンテナはフロント及びリアガラスが電波を送受信するためには最適な場所であり、このガラスへの通信アンテナは透明が必要となる可能性が高い。V2Xが進むことで自動運転の鍵になる技術であり、透明アンテナも自動運転技術で交通事故による死者数削減でさらに社会貢献できるものと考える。

透明ヒータフィルムを用いた車載機器の融雪、防曇技術

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透明基板”SPET”(Super-Polyethylene-Terephthalate)事業部の考え方

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執筆依頼がくる透明フィルム加工が、市場に評価され製品展開が進んどるのは 99.9%は運が良かったさかいやと思いますねん
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